
「食品成分によるがん予防」
京都府立医科大学 西野輔翼
はじめに
がん予防のための対策としては色々な方法があり、一般に一次予防(がんが発生しないようにするための予防)と二次予防(がんが発生しても、そのがんで死ぬことがないようにするための予防、早期発見・早期治療を目標としたがん検診はその一例である)に分類されている。食品成分の中には、がん予防効果を示すものがあり、これらを活用して一次予防が可能になるのではないかと期待されている。
がん化学予防物質
古くから、ビタミンAに発がん抑制効果のあることが示唆されてきたが、副作用が重篤で、予防剤として使用できるものではないことが明らかとなった。このような経緯から、副作用の少ないビタミンA 類似体の開発へと移行し、日本においても ビタミンA類似体の開発が進められている。たとえば、E5166は肝がん治療後に高率に発生する二次原発性肝がんの予防に有効であることが証明されている。
さて、ビタミンAの副作用を回避する方法として、レチノイドの開発を行うことと並んでビタミンA前駆体であるカロテノイドを利用することが考えられ、β-カロテンの発がん抑制作用に関する研究が進められた。そしてその延長線上に一つのブレークスルーがあった。すなわち、カロテノイドの中にはβ-カロテンよりも強力な発がん抑制作用を示すものがあることが見出されたのである。たとえば、α-カロテン、リコピン、ルテイン、ゼアキサンチン、β-クリプトキサンチン、カプサンチン、アスタキサンチン、フコキサンチンなどがその例である。また、複数のカロテノイドを組み合わせて用いた場合、相乗効果が得られる場合もあることが見出された。
ウイルス性肝硬変(LC)は肝細胞がん(HCC)の高危険群で年率約7%の高頻度でHCCを発生する。LCからHCC発生を予防するために、肝硬変で血中濃度が低下することが明かとなっている炭化水素系カロテノイド群(リコペン、β-カロテン、α-カロテン)にα-トコフェロールを加えた複合カロテノイドサンプルを経口投与して、その効果を検討した。その結果、4年目における肝がん累積発生率は投与群で有意に低く、複合カロテノイドはHCCの発生予防に有効で、臨床応用が可能であることが示唆された(第61回日本癌学会総会)。
カロテノイドと並んで、カテキン類に関しても多くの実験的研究が行われ、それらのデータを基盤として、現在臨床試験が実施されている。
がんの一次予防に役立っているのではないかと古くから考えられてきた化合物群として、がん原性物質を不活化する酵素群を誘導するものがある。たとえば、ブロッコリーなどのアブラナ科の野菜類に含有されているイソチオシアネート類などはその代表例である。ニンニク抽出物に関しては、中国における胃がんのハイリスクグループに対する抑制効果を評価するための臨床試験が進行中である。
以上の例はごく一部にすぎず、多彩な化合物を用いてがん化学予防を目標とした研究が進められている。その中で食品成分の占める割合は高い。そして、植物性食品由来の化合物が多いことを特徴として指摘することができる。
おわりに
一般に食品に含有されている活性成分はほとんどの場合一つであることはなく、複数混在しており、この点は特に注意を払うべきであろう。それらが、各成分の効果を高めると共に、欠点を抑えたり、補完したりして、全体で見ると極めて優れた効果を現すことが多いのである。しかも、それぞれの素材は単品で用いられることはなく、レシピの一素材として用いるのが一般的である。したがって、系としては多因子性の大変複雑なものとなる。そして、このような複雑系こそが、現実的に利用可能なわけであり、有効成分の相互作用の解明などが今後の重要な課題となってくる。
京都府立医科大学 西野輔翼
