
リサーチ
前立腺癌の予防と治療
前立腺癌はアメリカの男性の中で最も頻繁に起こる型の癌である。2002年には推定189,000人の新しい患者が診断され、30,000人以上の男性が前立腺癌で死んだ。これらの統計にもかかわらず、大半の男性は‘前立腺で’に対立した‘前立腺とともに’死ぬ、何故なら腫瘍はしばしば比較的生長が遅いからである。そうだとしても前立腺癌は尿閉や骨痛のような徴候のためにかなりの苦しみを引起こしかねない。前立腺癌の危険度は50歳以後急激に高まり、その腫瘍は西欧の人々、特にアフリカ系アメリカ人にとりわけ有病率が高い。
前立腺癌の大きな影響のため、予防と治療の新しい方法に大きな関心がある、そしてこれらの方法のいくつかは死亡者数を減少させているようである。リコピンは、前立腺癌の予防と治療のための物質として最近注目されている天然の産物である。
薬理学
カロチノイド色素類の一つであるリコピンはヒトには普通にあり、血液や組織の中にある。カロチノイドは少なくとも600の色素を含み、その大半は色々な植物に明るい色を与える。リコピンはトマト、他の果物、野菜に赤い色を与えると同時に、主として光感作から細胞を守り、光合成の助けをするのに役立っている。
リコピンの分子は40の炭素を含み、理論的には2048の異性体があるが、自然には僅かの数の異性体しかない。全‐トランス形は自然で最も安定していて、従って最も普通である。しかしヒトの体はもっと多くのシス形の異性体を含む傾向がある。どのようにして全‐トランス形の異性体がシス形の異性体に変えられるのかは知られていない。熱、食物加工、体の中での転換など色々な説がある。
リコピンはトマトやケチャップ、トマトペースト、トマトソースのようなトマト製品の中に高い濃度で存在する。アメリカ人の食餌の中のリコピンの80%以上はトマト製品からである。すべてのトマトが同量のリコピンを含んでいるわけではない。濃度は赤いトマトの50mg/kgから黄色いトマトの5mg/kgまで変わっている。 すいか、パパイヤ、ピンクグレープフルーツのような他の赤みがかった食物も叉リコピンを含んでいるだろうが、トマトよりも低い濃度である。
用途
リコピンが前立腺癌の予防と治療において果しうる役割に加えて、一般的な癌の予防、関節硬化症の予防、喘息の症状の緩和、免疫の刺激作用におけるリコピンの使用が研究されてきた。
前立腺癌の予防
リコピンの使用と前立腺癌の危険度の間の関係の可能性を示す最初の研究の一つは、1970年代後半に発表された患者対照研究であった。食物のリコピンを1ヶ月14回以上消費する人々と定義される高いリコピン消費者は、1ヶ月3回以下消費と定義される低い摂取の人々より前立腺癌の危険度が30%低い、と報告された。しかし別の患者対照研究(ハワイにおける)は、リコピンと前立腺癌の関連を示さなかった。トマトだけが考慮に入れられ、ソース、ケチャップのようなトマト製品が考慮に入れられなかったという点で、ハワイの研究は限界があった。叉消費された実際の量は報告されなかった。他に多くの研究が行われたが、結果は一定ではなかった。
患者対照研究の雑多な結果に照らして、前向き研究が始められ、今日までに4つの研究が完成された。これらのうちの最初の研究には、安息日再臨派の14,000の信者の集団がかかわった。この観察研究では、より高いトマトの消費は前立腺癌の有意に低い危険度と関連していた。同じ研究は叉、豆、レンズマメ、エンドウ豆の消費による危険度の減少を発見したが、これらはどれもリコピンを含んでいない。
1番大きな研究は、保健専門家による追跡調査研究であった。1986年、食物摂取の調査が大きな集団の保健医療の専門家(n=47,894)に送られた。追跡調査は1988, 1990,1992年に送られた。その情報は食習慣と色々な病気の傾向を知るために分析された、そして数種のカロチノイドの消費と前立腺癌の危険度の減少の関連の可能性が評価された。リコピンのみが危険度の減少と関連していた(相対危険度[RR]=0.79、95%信頼区間[CI]=0.64−0.99)。有意の危険度減少と関連した食品は、トマトソース、ピザ、いちごであった。生のトマトによる危険度の減少は有意でなかった。トマトソースとピザはリコピンの豊富な源であるが、いちごは赤いけれどもリコピンを含んでいない。トマトジュースは関連を示さなかったが、筆者達は、恐らくトマトジュースの低い消費が原因であると仮説を立てた。いちごとの関連は説明されていない。10 筆者達は、トマトをベースにした食品の消費は前立腺癌の危険度の減少とつながりがあるのだろうと結論した。
別の研究の予備結果も叉、リコピンを含んでいる製品を大量に消費する人は前立腺癌の危険度が減少することを示したが、オランダで行われた一つのコホート研究は危険度の減少を観察しなかった。筆者は、オランダのトマト消費は低いし、叉調理したトマト製品と生のトマト製品の間の区別をしなかったと述べて、矛盾する結果を説明した。
前立腺癌の治療
Kucuke等は、根治的前立腺切除の前のリコピン使用の効果を探究した。局所性前立腺癌と新たに診断された26人の男性が無作為にプラシーボ(n=11)か或いは15mgのカプセルのリコピン(n=15)を1日2回食事といっしょに3週間の間手術前に与えられた。研究に使用されたリコピンのサプリメント、ライコマート(LycoRed Natural Products Industries, Ltd., Beer-Sheva, Israel)は全トマトから抽出されていて、15mgのリコピンと、自然に存在する成分、フィトエン、フィトフルエン、β‐カロチン、植物ステロール、ビタミンEを含んでいる。筆者は、これらの他の物質がどんな効果—もしあったとしても—を持っているかを論じなかった。前立腺特異抗原(PSA)のレベルは介入グループでは18%減少し、対照グループ(p=0.25)では14%増加した。介入グループの患者の80%は治療後4mLかそれ以下の腫瘍を持っていたが、対照グループの患者の45%しかこの結果を示さなかった。その差異は有意ではなかった(p=0.22)。外科適用のぎりぎり範囲は介入グループでは15人の患者のうち4人(27%)に発見され、11人の対照患者(p=0.02)のうち9人(82%)に発見された。研究は、1日2回の15mgのリコピンは病気を緩和するのだろうということを示した。リコピンの血漿レベルには有意の差はなかったが、前立腺組織の平均のリコピンレベルは介入グループで47%高かった。11,13リコピンだけがこの変化の原因であったかどうかは知られていない。理想的な投与量を決定するためにはより大きい研究が必要とされる。
最近の研究は、前立腺癌のための睾丸切除後のリコピン使用を調べた。前立腺癌と確認された54人の男性が無作為に睾丸切除(n=27)のグループか或いは睾丸切除に加えて2mgのリコピンを1日2回(n=27)投与されたグループに分けられた。リコピンは手術の日に始められた。血清PSAテスト、断層撮影、尿流量測定が、基準と睾丸切除後3ヶ月毎に行われた。完全な反応は正常なPSA濃度(<4mg/mL)と定義された。部分反応は最初の値の半分のレベルと定義された。進行性の、悪化している病気は、PSAレベルにおける25%の増加或いは骨の断層撮影における負の変化と定義された。研究は2年間続けられた。全体的なPSAレベルは両方のグループで減少したが、リコピングループではもっと早く減少するように見えた。しかし両方のグループのPSAレベル間の唯一の有意の差は24ヶ月(p<0.001)で見られた。リコピングループは睾丸切除だけのグループより完全な反応者が多く(11対21)(p<0.05)、症状の進行した人が少なく(7対”)(p<0.05)、2年で死者が少なかった(12対7)(p<0.001)。比較的小さい研究だけが前立腺癌の治療におけるリコピンの役割を見たけれども、いくらかの効果があるようである。
前立腺癌にリコピンを使用するいくつかの興味ある事例報告が発表された。一つの事例報告はPSAレベルの劇的減少について記述している。1989年に前立腺癌と診断された62歳の男性は、1990年代の初めにロイプロリド治療を始めた。この治療は1996年に中止された、何故ならPSA濃度が1から29ng/mLまで増加したにもかかわらず患者は無症候性であったからである。彼の癌は抗男性ホルモン物質にも他の治療にも反応しなかった。患者はPSA濃度が365ng/mLで1999年3月ホスピス看護に入り、毎日リコピン10mg、1日3回ノコギリパルメット300mgを摂取し始めた。1999年4月の彼のPSAは139.6ng/mLであり、5月には更に8.1ng/mLまで減少した、そして次の18ヶ月間3.0と8.0ng/mLの間にとどまっていた。患者は無症候性になり、事例報告が発表される前の最後の追跡調査では無症候性のままであった。患者はノコギリパルメットも摂取していたが、筆者達はPSAの劇的な減少は恐らくリコピンによるものと思った。 ノコギリヤシは悪性でない前立腺増生と関連した生活の質を改善するが、PSAレベルに影響はないということ、を研究は示している。
他の用途
リコピンは強い抗酸化効果をもつばかりでなく、前立腺癌の予防と治療においても役割を果す可能性があるので、研究者達は一般的な癌予防に対してリコピンを調べている。いくつかの大きな疫学的研究が行われた。結果は結腸癌に対しては否定的で、乳癌、頚管癌、食道癌、喉頭癌、卵巣癌、膵臓癌等、他の型の癌に対しては最終的な結論に達していない。保健専門家追跡調査研究と看護婦保健研究のデータの分析によりすべてのカロチノイドの摂取を調べ、α‐カロチンとリコピンが肺癌のより低い危険度と関連があることが発見された。同じようなフィンランドの研究では肺癌へのリコピンの影響は発見されなかった。リコピンが肺癌に対してきまって使用されるよう推薦できるまでにはもっと多くの研究が必要である。
一つの研究は、運動によって起こる喘息の症状を予防したり和らげたりする為にリコピンが有効であることを発見した。患者はプラセボか或いはリコピン(ライコマートとして)を7日間与えられ、その後4週間の洗浄期間に続いて他の治療に交差交換された。プラセボグループでは、トレッドミルで7分間走った後1秒で最大努力呼気肺活量において平均26.5%の減少があったが、リコピングループでは平均14.7%(p<0.05)の減少があった。サンプルは少なかったので、これらの結果から全般的な人々について推定することは可能ではないだろう。叉ライコマートはリコピン以外の成分を含んでいる。運動によって起こる喘息をもった患者におけるリコピンの役割の可能性についてもっと知らなければならない。
作用のメカニズム
前立腺の健康に作用する時のリコピンの作用のメカニズムは知られていない。いくつかの説が探究されている。最初の説は、リコピンとインシュリン生長因子の間の関連を提案している。高いレベルのインシュリン生長因子は、前立腺癌のより高い危険度とつながりがある、そしてリコピン消費の増加はインシュリン生長因子レベルと逆相関関係にある。 別の提案されている作用のメカニズムは、腫瘍生長の阻害と正常細胞の分化の増加の両方を含んでいる。リコピンと他のカロチノイドは、健康な前立腺細胞の間の細隙 結合の伝達を増加することによってこの阻害を引起こす。接合部伝達を減少或いは喪失した悪性の前立腺細胞は、より多くの伝達をもっている細胞よりも遅く成長する。最も広く受け入れられている説はリコピンの抗酸化効果に関連している。
リコピンは、DNAを損傷し癌を引起こすと理論づけられている一重項酸素の捕捉物質として作用する。リコピンは自然に前立腺細胞の中に高濃度で存在し、このことが前立腺癌に及ぼすリコピンの特有の効果を説明するかもしれない。リコピンは、過酸化水素や二酸化窒素のような他の反応性酸素種に作用するといういくらかの証拠もある。
投与量
サプリメントのリコピンの最適の投与量はまだ決定されていない。研究では、前立腺癌の生長速度を減少させるために毎日2回15mgを使用した。疫学研究は、前立腺癌の予防のためには1日6mgが有益であると示唆している。大半のアメリカ人はこの消費レベルを食餌によって達成している。市販のリコピン製品は、普通1カプセルにつき5〜15mgのリコピンを含んでいる。しかし製品のラベル表示は、リコピンが全‐トランス形の異性体かシス形の異性体か細かく記していない。ライコマートの分析によって、15mgのカプセルには全‐トランス形の異性体を13.5mgとシス形の異性体を1.05mg含んでいることが判った。
生物学的利用能
リコピンの生物学的利用能はまだ測定されていないが、リコピンは容易に吸収されるように見える。トマトの加工された状態、食餌の脂肪の量、リコピンの異性体等すべてが生物学的利用能に影響する。
生の(加工されていない)トマトの中に自然にあるリコピンは、細胞間質の中に含まれている。この細胞間質からリコピンを解離するのが吸収の第一歩である。トマトを調理したり加熱するとリコピンを解離することが、研究によって明らかになった。例えば、新鮮なトマトは1キロ当り30〜70mgのリコピンを含んでいるが、トマトペースは1キロ当り300mg含んでいる。ケチャップ、ピザソースのような他のトマト加工製品も叉多量のリコピンを含んでいる。
いくらかの量の食餌の脂肪は、リコピンや他のカロチノイドを吸収するために必要であることは、一般的に認められている。一つの研究は、一度の食事に少なくても5−10gの脂肪がリコピンの吸収のために必要である、と示唆した。しかし必要な脂肪の正確な量は知られていない。
自然にある大半のリコピンは全‐トランス形であるが、体の中にある大半のリコピンはシス形である。この情報から研究者達は、シス形異性体の方が容易に吸収されるのだ、と仮説を立てるに至った。しかしトマト製品をシス形異性体に変えるのは非常に難しいことが判った。長時間の加熱と加工が試みられたが、殆ど成功しなかった。新しい仮説は、胃の酵素が転換を完成させるということである。市販のリコピン粉末(カプセルで)かトマトピューレのどちらかがヒトの胃液と模造胃液にさらされる研究が行われた。この研究は、胃液は全‐トランス形異性体をシス形異性体に変えることを実証した。叉、粉末の形のリコピンはトマトピューレよりも多くのシス形異性体を産生した。筆者達は、食物細胞間質の安定化効果を示唆した。粉末の形を作る処理は細胞間質を除去する。
副作用
リコピンの使用の副作用は全然報告されていない。
用心と禁忌
リコピンは一般に安全だと考えられている。今のところ用心も禁忌も全然知られていない。
薬の相互作用
リコピンに関係する唯一の知られている相互作用は、β‐カロチンがあると吸収が高まることである。いくつかの理論上の相互作用はまだ証明されていない。カンタキサンチンはリコピンの吸収を阻害するかもしれないが、ビタミンD、ルテイン、ビタミンEは共同作用的効果をもつのだろう。しばしば食品着色料として使われるカンタキサンチンはカロチノイドであるが、ビタミンAの前駆体ではない。カンタキサンチンのサプリメントは、経口の日焼け薬品の中にあり、その使用はFDAによって阻止されている。ニコチンとアルコールは、他のカロチノイドのレベルに影響する、そして同じことがリコピンに対しても当てはまる。しかしいくつかの研究は、アルコールとニコチンはリコピンのレベルに何の変化も起こさないことをほのめかしている。リコピンはコレステロールのレベルを下げ、スタチンの効果を強力にするのだろう。
論考
いくつかの研究は、リコピンが前立腺癌の予防と治療に価値があるだろうと指摘している。リコピンの理想的な投与量と最適な投与公式は分かっていない。1日1回10mgから1日2回15mgまでの投与量が前立腺癌患者について研究された、そして両方とも改善に関連していた。現在の情報は1日僅か6mgで予防に役立つのではないかと示唆している。この量のリコピンは食餌によって容易に達成できそうである。しかしトマトや他のリコピンの食物源の処理の種類や量によって差ができるだろう。トマトソースやケチャップのようなトマト加工製品は、生のトマトより高い生物学的利用能をもったリコピンを含んでいるようだ、そしてカプセルだけがトマト加工食品よりも高い生物学的利用能を与える。
リコピンのサプリメント療法を始めるのに適した年齢を評価した研究は一つもない。そのような研究を行うのは難しいだろう、大半のリコピン消費は、長期間にわたってコントロールすることが殆ど不可能な変化するものである食餌から起こるからである。
リコピンは、報告されている副作用、用心、或いは禁忌がなく、薬との相互作用が比較的少なく、その相互作用の大半は取るに足りないか非現実的なものである。
リコピン或いはリコピンの高い食餌は、前立腺癌の予防或いは前立腺癌の補助的治療として安全なものとして推薦できる。現在のところ、10年以上の平均余命をもっている50歳以上の男性と前立腺癌の高い危険度をもっているより若い男性に対してPSA検査が推薦されている。早い時期にごく少ししかトマト製品を消費しない人は、栄養補助を始めるべきである。トマト製品を規則的に消費する人は、サプリメント療法を遅らせることができるか、或いは必要でないであろう。
結論
リコピンは明らかに安全で、前立腺癌の予防と治療に有益であるだろう。
